国連科学委員会(UNSCEAR)福島原発事故の放射線影響評価に関する2016年白書と福島の甲状腺がんに関して2016年11月23日 10:01

60.国連科学委員会(UNSCEAR)福島原発事故の放射線影響評価に関する2016年白書と福島の甲状腺がんに関して

 

このブログでは、福島原発事故の放射線影響に関するUNSCEARの報告書について、報告書が出された2013年に、放射線の知識第34回(2013年6月5日)で紹介した。

UNSCEARでは、その後の調査や研究の結果得られた知見をレビュー評価し、2013年報告書の内容に修正を及ぼすべきかどうか評価するプロジェクトを継続しており、昨年の第1回に続いて、本年の評価を白書として11月15日に日本政府に提出している(白書の内容は日本国民向けということで、日本語でも報告されている

http://www.unscear.org/docs/publications/2016/UNSCEAR_WP_2016_JAPANESE.pdf)。

 

この白書内容については、地元の福島以外ではマスメディアがあまり報道していないようであるが、UNSCEARの報告内容というのは、このブログで指摘してきたように、ICRPと並んで現時点での国際的な科学者、技術者の放射線影響に関する客観的な科学技術評価をまとめたものと考えてよいものである。

 

今回の白書では、2013年報告書で示された内容(例えば放射線被ばくによる癌発症の影響については、「放射線被ばくに関連する白血病または乳がん(最も放射線に誘発されやすい2種のがん)や他のタイプの固形がん(おそらくは甲状腺がん以外)の発生率が、識別可能なレベルで放射線に関連して上昇することはないと予測」)を修正する必要はないとしている。そして、甲状腺がんについては、2013年報告書では、「小児の間で甲状腺がんリスクが増加し得る可能性を認識しているが、福島原発事故後の甲状腺への吸収線量がかなり低かったため、福島県においては、チェルノブイリ事故後のような多数の放射線誘発甲状腺がん発生の可能性を考慮しなくともよい」とも指摘していた。

 

このブログでは、福島の子供の甲状腺がん問題に関するテレビ朝日の報道ステーション報道に対して、今年3月の第58回記事で抗議したが、その中で紹介した岡山大の津田氏達の論文に関して、今回のUNSCEAR白書では、私の見解と同様に、偏った見解として科学的に評価できないものとしていることが注目される。

 

そこで、今回はこのUNSCEARの2016年白書内容から、津田氏達の論文評価内容部分を示すので、こうした似非専門家の見解が、国際的、客観的にはどう見られているかに関して理解を深めていただきたい。

 

<正しい知識のために>

 

(UNSCEARの2016年白書から)

 

1編の論文(津田氏達のEpidemiology 27(3): 316-322 (2016)の論文およびその後に発表された批判への回答 )は、甲状腺がんの発生率が放射線によって上昇したことを証明できると主張している。著者らは福島県で50 倍(95%信頼区間:25倍~90倍)の過剰を報告している。しかし、調査の計画と方法は、この解釈を正当化するにはあまりにも偏りが生じやすいものであった。津田氏達は、観察された甲状腺がん発見率に対する、甲状腺の高感度超音波検診の影響を十分には考慮に入れていない。彼らの結論は、FHMS(福島県の県民健康調査)の集団検診を受けた人の甲状腺がん発見率と、小児の甲状腺検診結果がほとんど含まれていない日本の他の地域での発見率との比較に基づいていた。小児期に検診を受けた他の集団、特に被ばくしていない3県で超音波検診を受けた小児についての調査、および日本の若年層における他の検診調査では、放射線被ばくのない甲状腺がんのベースライン発見率がFHMSの発見率と同程度であることが判明している。同様に、韓国で広範な検診を行ったところ、甲状腺がん発見率の明らかに大幅な上昇を経験した。また、検診で検出されたがんの一部は、放射線被ばくの前から存在していた可能性がある。

Wakeford氏達は( Epidemiology 27(3): e20-21(2016))、FHMSが調査した小児の甲状腺がん有病率について、事故に起因する被ばくが比較的低い地域、中程度の地域、および高い地域(津田氏達の定義によるもの)にそれぞれ居住していた小児の有病率を比較することで、津田氏達の論文のデータを分析している。Wakeford氏達 による分析では、線量反応関係の傾向は何ら認められなかった。

実際、被ばくが最も高い地域と最も低い地域における甲状腺がん有病率の比はわずか1.08(95%信頼区間:0.60~1.96)であった。このほかにも、津田氏達と小児の放射線誘発甲状腺がんに関するデータの本質的な部分には、以下のような不一致が見られる。

 

(a)津田氏達の論文は、放射線被ばく後、1年~2年以内に過剰発生があったと報告しているが、チェルノブイリ原発事故後調査および甲状腺への線量がよりかった調査において、年~4 年以内での過剰発生られていない。

(b)FHMSにおける甲状腺がんはすべて、放射線被ばく歳~18歳年齢層発生しているが、調査では甲状腺がんの誘発小児早期歳未満)にばくした年齢層発生している。

(c)測定れた甲状腺線量は、報告された高有病率整合するにはすぎる

 

このような弱点不一致があるため、本委員会は、津田氏達による調査2013年報告書知見重大異議であるとはみなしていない。

上記の記載に示されているように、津田氏達の論文は統計的な意味を持たず、私が3月に指摘したように、「学術論文として投稿発表する」に値しないタメにする論説以外の何ものでもないのである。

UNSCEARは、「調査の計画と方法は、この解釈を正当化するにはあまりにも偏りが生じやすいものであった」、「2013年報告書の知見に対する重大な異議であるとはみなしていない」と穏やかに述べるのだが、本音は、こんな科学に基づかない論文は読んで反論する価値すらないと言っていることを、我々はよく認識しなければならないのである。

 




「モグラたたき(WAM)」モデルと線量・線量率効果係数(DDREF)2016年11月14日 16:51

59.「モグラたたき(WAM)」モデルと線量・線量率効果係数(DDREF)

 

このブログで何度も説明してきたように、放射線防護上の放射線被ばく影響評価の基本的考え方は、「LNTモデル(低線量被ばくにおける癌発生などの確率的影響には、しきい値は存在せず、そのリスクの大きさは被ばく線量に比例するとするモデル)」である。

 

しかし、昨年の10月このブログでは、生物学的な損傷の修復メカニズムを考慮した「モグラたたき(WAM:Whack-A-Mole)」モデルという考え方が大阪大の真鍋勇一郎氏等によって提唱され、それに基づく数式よって米国オークリッジ国立研究所で行われたメガマウス実験結果を評価説明することができ、低線量という不確実な領域でも生物學的影響の定量的評価の可能性が見いだせること、このモデルで評価すれば、福島の居住制限区域や帰還困難区域としてLNTモデルに立った総線量規制で考えられているような線量レベルの場所では、ほとんどリスクが増えないと考えられるということを説明した(放射線の知識(第54回))。

 

このモデルの考え方を提唱された真鍋氏等の研究を私は大いに評価するもので、今後の研究の進展、議論を期待しているのだが、日本原子力学会の英文論文誌「Journal of Nuclear Science and Technology」の11月号に「Dose and dose-rate dependence of mutation frequency

under long-term exposure – a new look at DDREF from WAM model」という論文が真鍋氏等により発表され、低線量被ばくによる放射線影響を評価する際の線量率の効果として放射線防護上導入されている線量・線量率効果係数(DDREF)について、WAMモデルでどのように説明できるかが示された。

 

DDREFについては、このブログでは質問に答える意味で、ICRPの放射線防護上の考えを3年前の第39回で説明した。その時にはWAMモデルを使った評価はなかったので、低線量被ばくによる確率的影響を評価する上で、しきい値なしLNTモデルを使い、その影響を高線量・高線量率被ばく結果から導く際の不確かさを保守的に評価するために、1より大きい(ICRPは2を採用)DDREFが採用されていると説明してきた。

今回の論文では、WAMモデルを使った場合に線量率の違いによる影響評価が適切に示され、つまり、単一のDDREF値を採用した低線量被ばく影響に関するLNTモデルの限界が示されているとも言える内容になっている。

 

今回はこの論文内容のポイントを紹介して、放射線影響に関する考え方について理解を深めていきたい。

 

<正しい理解のために>


WAMモデルでは、放射線被ばくによる影響(ここでは細胞レベルの突然変異率Fを考える)の時間変化を、

 

dF(t)/dt=(a+bR)-(c+dR)F(t)     ・・・    (1)

 

 

    (ここで 、F(t):時間t時の突然変異率、 R:線量率 )

 

とし(右辺の第2項のマイナス項が修復メカニズムに対応する項)、Rを一定とした場合、これを解いて、

 

F(t)=(a+bR)/(c+dR)・(1-e-(c+dR)t)+F(0)e-(c+dR)t  
                                ・・・     (2)

 

を得るもので、F(0)=0の場合、これはいわゆる成長曲線を示し、この場合の突然変異率の上限値はF(∞)=(a+bR)/(c+dR)であり、時間とともにこの値に近づいていくだけで、時間とともに被ばく線量が累積していけば、リスクが比例的に増え続けていくというLNTモデルは現実的でないとするのである。

 また、放射線被ばくのない、つまりR=0の場合でも一定の自然界の突然変異率Fs=a/cが存在することになる。

 

ここで、F(0)=Fs(自然界の突然変異率)として、時間t経過後の放射線被ばくによる過剰な影響効果E(t)を以下の通り定義すると、

 

  E(t)=F(t)-Fs

      =((a+bR)/(c+dR)-a/c)・(1-e-(c+dR)t)       

    =(b-(a/c)・d)・(R/(c+dR))・(1-e-(c+dR)t) 

                                 ・・・  (3)

となり、

 

 tがtc=1/(c+dR)より十分小さい場合、e-(c+dR)t≒1-(c+dR)tであるから、

 

E(t)≒(b-(a/c)・d)・D 、ここでD=R・t(つまり線量)  

                                 ・・・  (4)

 

となる。

 

 これはE(t)が線量率RでなくDに比例することを示すもので、LNTモデルに相当することになる。しかしながら、tが大きくなるとE(t)は線量率Rに依存し、総線量Dとの比例関係からずれ、Rを一定とすると、最終的に

 

 E(∞)=(b-(a/c)・d)・R/(c+dR)       ・・・  (5)

 

に近づいていく。
 逆に、線量率Rが一定の場合にD=Rtであるから、(3)式はDの関数で示され、

 

   E(D,R)=E(∞)(1-e-(c+dR)D/R)       ・・・ (6)

 

となる。

 

 また、同じ総線量Dの場合に線量率Rの効果がどう表れるかを評価するための係数ηを以下のように定義すると、

 

 η=E(D、Rref)/E(D、R)
   =(Rref/Cref)・(1-e-CrefD/Rref)・(C/R)/(1-e-CD/R)    

                                ・・・   (7)

 

 ここで、C=c+dRであり、Rrefを比較とする線量率とする。

 

 注目すべきはこの(7)式では、(1)式の右辺第1項(a+bR)が表れていないということであり、同一線量における放射線被ばくによる影響の線量率効果は、損傷の修復メカニズムにのみ依存しているということなのである。

 

 真鍋氏等は米国オークリッジ国立研究所で行われたメガマウス実験結果のフィッティング値としてこれまでの式のパラメータa,b,c,dを求めており、それを使って(7)式のηの値をRref=1Gy/h(Sv/hと同等)として種々の線量Dについて計算し、以下の表のように示している。

 

 

総線量D

  線量率R

20mGy

50mGy

0.2Gy

1Gy

0.1Gy/h

1.00

1.00

1.00

1.01

20mGy/h

1.00

1.00

1.01

1.07

  5mGy/h

1.01

1.01

1.06

1.32

  1mGy/h

1.03

1.08

1.33

3.06

0.1mGy/h

1.33

1.93

5.96

    28.1
10μGy/h

6.01

15.0

59.2

   280
  1μGy/h     59.9     149     592   2800

 

この表で1以外の値が示すものは、R=1Gy/hという高い線量率で示された同一被ばく線量での影響と、それと異なる線量率で同一線量被ばくした場合の影響に異なる結果が出るということである。また、1以上の値は1Gy/hという高線量率での影響結果を低線量率に当てはめる場合は過大評価になるため、DDREFのような係数で割り引かねばならにということを示すことになる。

 

しかしながら実際に我々が問題としているような低線量率での影響は違いが大きく、同じ線量率でも総線量Dによって値が大きく異なる。つまり影響評価に大きな違いがでるということであり、このことは、20mGyや50mGyといった低線量被ばくの影響評価を、LNTモデルを使用し、DDREFを一つの値で行うことは実際的でないということを示しているのである。

 

今回は、低線量被ばくにおける確率的影響の放射線防護上の評価のために導入されているLNTモデルでの線量・線量率効果係数(DDREF)は、「モグラたたき(WAM)」モデルで評価したらどのような結果になるかを真鍋氏等の論文から引用して示した。

 

真鍋氏等のWAMモデルの研究は、低線量被ばくによる影響評価を、メガマウス実験による突然変異率の評価結果を当てはめて論じているものであり、彼らも論文で述べているように、WAMモデルが放射線被ばくの確率的影響であるがん発症への影響評価に直接使えるかはまだ明確ではないが、今後の研究進展、特にこのモデルの議論が国際的に深まることを大いに期待したいものである。




論語四十八の言葉(48)「浸潤之譖、膚受之愬、不行焉、可謂明也已矣、浸潤の譖(そしり)、膚受(ふじゅ)の愬(うったえ)行われざる、明と謂うべきのみ。」2016年07月22日 11:27

孔子が、子張から聡明とはどういうことかと問われて答えた言葉である。浸み込むようなじわじわとくるつらい悪口や肌身に受けるような痛切な訴えに人は心を動かされて、おだやかでいられないものだが、そうしたことに関しても、動ぜず、物事の本質を判断できるなら聡明と言ってよいだろうと語っている。

 

耐えがたいような誹謗中傷や情感に訴える言質に接すると、ややもすると人は動じて心穏やかでなく、判断を過つことがあるもので、そうしたことのないよう、常に本質を見極める大切さをこの言葉を戒めとして、心にとめてきた。




論語四十八の言葉(47)「爲政以徳、譬如北辰居其所、而衆星共之(政を爲(な)すに徳を以てすれば、譬(たと)えば北辰の其の所に居て衆星(しゅうせい)のこれに共(むか)うがごとし。)」2016年05月20日 12:01

孔子が為政者の心構えについて語った言葉で、徳の心をもって政治を行えば、北極星がその位置を少しも変えず、周りの星々がこれを中心に指向しながら回転するように、人心は為政者に自ずと帰服するものだということである。

前回(46回)と同じように、これは何も政治に限らないことで、人の上に立つリーダは、北極星のように立つ位置をしっかりとし、誰からも慕われるような徳の心をもって導いていかなければならないのだと思ってきた。

私の経験から、自分の利のみを考え、部下のやる気をそぐような人も見てきたが、この言葉とともに、そうした人をつねに反面教師としてきた。




熊本地震と川内原発に関して2016年04月22日 12:06

昨日で最初の震度7の熊本大地震から1週間になる。この間、一部のマスメディアや野党の政治家、反原発主張の人々が、川内原発の運転停止を求める主張を展開している。

 

このブログでは、原発の再稼働問題に関して、裁判所の決定や一部のマスメディアの報道に関してその都度見解を示してきたが、科学技術上の政策判断に関わるこのような問題について、相変わらず客観的な事実に基づかない感情的、あるいはタメにする意見や主張が横行し、冷静な議論を妨げる結果になっていることを残念に想う次第である。

 

今回はそのような主張の典型である東京新聞の社説(4月16日と20日の2回にわたって主張)に関して、誤りを指摘する(私の見解は前回同様朱記部)ことによって、状況を多くの人に理解していただきたいと考える。

 

4月16日東京新聞社説より:
「日本はやはり地震国。九州を襲った「震度7」に再び思い知らされた。福島第一原発事故のそもそもの原因は、地震である。その原点に立ち戻り、原発の安全対策の在り方を再点検するべきだ。」
「国会の福島第一原発事故調査委員会は、原因は津波だけでなく「地震による損傷の可能性も否定できない」と指摘。「小手先の対策を集積しても、根本的な問題は解決しない」と結論づけた。」
→福島第一原発事故の直接原因は地震ではなく、対策を実施していなかった想定を超えた津波による電源系統の機能喪失であることは、科学技術上決着済みの事項であり、国会事故調の「地震による損傷の可能性も否定できない」との指摘は否定されている。ところが、東京新聞は、地震によって福島の事故が引き起こされた可能性を繰り返し指摘している。

これは事実に基づく報道というジャーナリズムの立場から逸脱したもので、極めて残念なことで、このような主張をすること自体が、その見解が信頼されないことをこの社説氏はわかっていないようである。

 

「原発は無数の機器と複雑な配管の固まりだ。見かけは正常に動いていても、強い震動がどの部位にどんなダメージをもたらすか。その積み重ねがどんな結果につながるか、未解明のままなのだ。断層のずれは、想定外の地震を起こす。熊本地震の教訓だ。」
→強い振動の積み重ねがどんな結果になるか未解明のままだというのなら、耐震設計など存在しないことなる。原発には多数の機器や配管があるが、安全上の重要度分類にしたがって、耐震設計の重要度が決められており、実験に基づいた科学技術知見にもとづいて、十分な裕度をもたせてそれぞれ耐震設計が行われている。新規制基準では設計上の基準地震動に見直しが行われたが、今回の熊本地震の断層のずれは、存在の分かっている活断層のずれであり、川内原発の基準地震動を策定する上でこの活断層のずれは考慮されており、想定外の地震というのは全く事実に反する主張である。

 

4月20日東京新聞社説より:
「規制委は、川内原発の再稼働を認めた審査の中で、今回の地震を起こした布田川・日奈久断層帯による地震の規模はマグニチュード8・1に及ぶと想定したが、原発までの距離が約九十キロと遠いため、影響は限定的だと判断した。熊本地震は、その規模も発生のメカニズムも、過去に類例のない、極めて特異な地震である。複数の活断層が関係し、断層帯を離れた地域にも、地震が飛び火しているという。通説とは異なり、布田川断層帯は、巨大噴火の痕跡である阿蘇のカルデラ内まで延びていた。海底に潜む未知の活断層の影響なども指摘され、広域にわたる全体像の再検討が、必要とされている。正体不明なのである。未知の大地震が起きたということは、原発再稼働の前提も崩されたということだ。新たな規制基準は、3・11の反省の上に立つ。「想定外」に備えろ、という大前提があるはずだ。未知の地震が発生し、その影響がさらに広域に及ぶ恐れがあるとするならば、少なくともその実態が明らかになり、その上で「問題なし」とされない限り、とても「安全」とは言い難い。過去の想定内で判断するということは、3・11の教訓の否定であり、安全神話の時代に立ち戻るということだ。」
→熊本地震は、その規模も発生のメカニズムも、過去に類例のない、極めて特異な地震で、正体不明で、未知の大地震としているが、布田川・日奈久断層帯の地震であることは明確で、未知でもなく想定されている地震である。マグニチュード7クラスの地震があり、6や5の地震が起きているが、活断層帯での地震であって、その規模も想定内のことであり、東日本大震災のような当時の想定外とは状況が違っている。未知の大地震が起きたので、原発再稼働の前提が崩れたというのは全く事実に反している。

 

原発の耐震設計は、まず活断層上に安全上の重要施設があってはならないということ、その上で耐震設計は基準地震動をサイトごとに科学的、合理的な判断で設定し、その基準地震動に対して健全性を維持する(実際の設計上は十分な裕度をもって対応されている)ことを担保するものである。また、今回の熊本地震での多くの家屋の損壊に関しては、地盤自体が火山灰の堆積構造で軟弱であったと指摘されているが、原発の場合にはその重要施設は強固な岩盤上に設置することとされており(私自身は建設中の原発の初期段階に何回か岩盤そのものを見ており、ひとつの記念として東北電力の女川3号機の原子炉建屋の岩盤の石を持っている)、そうした問題も生じないのだが、そうした状況の違いは考慮せず、大地震が起きたから原発は危険であるという単純な感情論でしかない。

 

想定外に備えるために、新規制基準では地震等の外部事象で重大事故が起きることを前提にその対策を求めているのだが、そのような新規制基準対応を正確に理解しないで主張することは不毛な議論で残念なことであるし、2回にわたって不正確な事実認識に基づいて主張するこの社説氏に抗議したい。