丸川環境相発言に関して2016年02月14日 13:50

56.丸川環境相発言に関して

 

丸川環境相が2月7日の松本市の講演で、年間1ミリシーベルトという長期的な被ばく目標に関連して、「『反放射能派』と言うと変ですが、どれだけ下げても心配だと言う人は世の中にいる。そういう人たちが騒いだ中で、何の科学的根拠もなく時の環境大臣が決めた」と述べたと信濃毎日新聞が報じたことから、国会でも追及され、「事実と異なるので、当日の福島に関連する発言を全て撤回する。福島を始めとする被災者の方には申し訳なく思う。改めて心からおわび申し上げたい」と謝罪したことが報じられている。

 

私は、昨年11月(前回(55回)の放射線の知識)に読売新聞の社説を取り上げ、年間1ミリシーベルトに拘る住民がいることとの関連で、ジャーナリズムの中でもこの問題を正しく理解しようとしているものが出てきていることを評価し、今回の丸川発言を契機に、この問題が広く議論されればよいと考えていたのだが、単なる失言(伝えられている丸川環境相の言い回しは確かに軽率であったが、1ミリシーベルトに拘る住民との関係で、リスクコミュニケーションがうまく機能していない面があることを言いたかったのだろう)で幕引きになってしまうのは、残念でならない。

 

そこで、今回はあらためて現状、どこに問題があるのか考えて理解を深めたい。

 

<正しい理解のために>

 

まず、避難者の帰還に関連して国の除染目標がどうなっているかだが、環境省の除染情報プラザ(http://josen-plaza.env.go.jp/decontamination/qa_01.html)では、「除染の具体的な目標はありますか?」というQに対して、

 

「除染作業による放射線量の低減目標は設定していませんが、除染、モニタリング、食品の安全管理、リスクコミュニケーション等の総合的な対策による放射線防護の長期目標は、個人が受ける追加被ばく線量が年間1ミリシーベルト以下になることとしています。

放射性物質の付着状況は対象物によって異なるため、それぞれに応じた効果的な除染手法を採用していることから、特別に「除染作業による放射線量の低減目標」は設定していません。なお、汚染状況重点調査地域の指定基準として、毎時0.23マイクロシーベルトの空間線量率を用いていますが、これは除染の目標や除染直後に達成すべき目安ではありません。政府は放射線防護に係る長期目標として、モニタリング、リスクコミュニケーションなどによる放射線リスクの管理、除染などの総合的な対策を行い、段階的に追加被ばく線量を下げることで個人が受ける追加被ばく線量が年間1ミリシーベルト以下になることを目指します。」

 

と、回答しているように、除染そのものの目標基準を国が設定しているわけではなく、長期的な追加被ばく線量として1ミリシーベルト以下となるように目指していきたいとしているだけであるということだが、このことがそもそも認識されていない問題がある。
 上記の回答の中でも、汚染状況重点調査地域の指定基準として毎時0.23マイクロシーベルトという数値があるが、これは自然放射線によるバックグランドレベルを毎時0.04マイクロシーベルトとして、

 

(0.23-0.04)X365X(8+16X0.4)≒年間1000マイクロシーベルト
                          =年間1ミリシーベルト
 

として決められた値であるが、この汚染状況重点調査地域の基準である年間1ミリシーベルトが、除染をするかしないかの基準であり、つまり除染をするところはこの値に下げなければならないのだと誤解される場合が多く、結局この値になっていなければ、帰還しても安心できないという不安につながっている問題があるのである。そして、歴代政権はこうした問題にそれなりに説明対応はしているのだが、マスメディア含めて広く周知されているとは言えない。

 

また、2年前にも、実際の線量計による測定データから、空間線量率が毎時0.23マイクロシーベルトを上回っていても年間1ミリシーベルトの外部被ばく線量を超えないケースがほとんどであることから、毎時0.23マイクロシーベルトの値を見直す検討を環境省が行っているという報道がされ、その時にもマスメディアは毎時0.23マイクロシーベルトは除染目標であるという誤報を行い、専門家でもない日本弁護士連合会が誤解に基づく「除染目標値の安易な緩和に反対する会長声明」を出すなど、世の中に正しい理解に基づかないおかしな対応が行われているのが実態なのである。

 

1ミリシーベルトという被ばく線量の意味するリスクを正しく理解しないまま、何が何でもこの値以下でないと不安である「反放射能派」(私の言う放射線恐怖症の人々)を煽る報道や言説が行われることははなはだ残念であり、マスメディアもこの機会にもっと除染後の帰還生活のリスクとはどのようなものか、積極的に報道してほしいものである(前回評価した社説を掲載した読売新聞などは先頭に立って欲しい)。

 

尚、ここであらため低線量放射線被ばくによるリスク(確率的影響としての癌になるリスク)が他のリスクに比してどの程度であるかの例として、畝山智香子さんの「「安全な食べもの」ってなんだろう?」(日本評論社)に記載されているものを以下に示すので、皆さんは正しくリスクを理解して欲しい。

 

食品中の発がんリスクを最も高める物質は無期ヒ素だそうで、ヒ素が多く含まれるヒジキ(因みに英国やオーストラリアなどでは輸入・販売が禁止されている)を毎日1g(20日に一度20gでも同じ、私などはこれ以上に食べているが)食べると、発がんリスクは27ミリシーベルトの被ばくに相当する。

また、米にも比較的ヒ素は多く含まれ(100~200μg/kg)3食ごはんを食べていると、20ミリシーベルトの被ばくと同じ程度の発がんリスクということになる。

 

つまり20ミリシーベルトというのは、ごはん食をしているのと同じ程度のリスクであり、ましてや「モグラたたき」モデルのように、累積線量に比例して単純にリスクが増えるわけではないという知見もあることを考えれば、1ミリシーベルトや20ミリシーベルトといった低線量被ばくにどれだけ拘る必要があるのか、ひとり一人が正しく理解し判断してほしいと思うのである。




論語四十八の言葉(45)「君子不以言擧人、不以人廢言(君子は言を以て人を挙げず、人を以て言を廃せず。)」2016年02月19日 12:10

 孔子が、君子は言葉によって人を抜擢したりせず、また、人によって、つまり身分の違いなどによって、意見を採用しないということはしないものだと語っている言葉である。

 

つまり、言葉や外見、身分で人を判断するのでなく、其の人を良く見て人を判断し、意見は意見の内容で判断するのが正しいのだと言っている。

人の上に立つリーダや経営者というものは、人や意見を判断する能力を磨くことが重要であり、難しいことだが、少しでもこの言葉のようになるよう心がけてきた。



低線量被ばく影響の正しい理解:毎日新聞山田孝男記者の間違い2016年02月22日 10:11

57.低線量被ばく影響の正しい理解:毎日新聞山田孝男記者の間違い

 

相変わらず、ジャーナリズムでは放射線の影響を正しく理解できていない人が多い。

 

今日の毎日新聞の風知草コラムを読んで、ベテランジャーナリストの山田孝男記者でも間違った理解をしていることで、悲しくなった。

彼のコラムについては、一昨年10月の川内原発に関する火山噴火リスクに関連して、このブログで一部取り上げたが、ジャーナリズムの中では、比較的冷静な議論をする人だと見えるからである。

 

彼は、小泉元首相の脱原発主張を支持しているようなので、原発再稼働等には価値観の問題として、反対の立場の言論人のひとりであろうが、小泉元首相の主張には、間違った理解に基づくものがあるとこのブログ(2013年11月)でも指摘したが(私は、それぞれの人が自分の信条、信念に基づいて原発再稼働賛否を主張するのは構わないが、前提となる科学技術上の正しい認識に基づかないで主張することには批判もするし、影響力のある人々が事実を曲げてタメにする主張をするのであれば、強く抗議する)、今回の山田記者の主張も、間違った認識を踏まえており、残念に思ったのである。

 

山田記者のコラムでは、京大炉の今中助教(因みに、この方と私はお付き合いはないが、同じ年代に原子力工学を学んだ世代である)の定年を迎えての公開ゼミでの話を取り上げて、

 

「放射能汚染地域で暮らすなら、余計な被ばくはしないほうがいい。一方、汚染地域で暮らす以上、それなりの被ばくは避けられない。(何が最優先か、人の判断は異なるので)自分で考えて決めるしかない。学者は情報を出す」  −−と今中。 低線量被ばくの長期的影響は不明である。」

 

と書くのである。

 

<正しい理解のために>

 

このブログでは、何度も繰り返し指摘してきた。

 

上記記述の一番最後の「低線量被ばくの長期的影響は不明である。」という言葉は、タメにする一部の似非専門家の言説と同じであり、山田記者はそうした人々の影響を受けているのであろう。

正しくは、「低線量被ばくの長期的影響は認められていない。リスクつまり影響があらわれる可能性が十分小さいため、疫学調査でも統計的に有意な結果が出ず、認められていない」と言わねばならないのである。

それを、「認められていない」を「影響がわからない、不明」と言い換え、リスクが十分小さいということは言わないで、「影響はわかっていない、不明である。影響はわからないことが多い」という表現に持っていくのが、似非専門家の主張である。私たちはこうした言説に騙されてはいけないのである。

前回このブログで述べた丸川環境相の発言に関して山田記者は、

 

「「帰れるはずの所に、いまだに帰れない被災者がいるのは、除染の目安になる被ばく線量を厳しく設定し過ぎた民主党政権当時の環境相のせいです」 厳しい規制を求めたのは住民、自治体であり、民主党主導ではなかった。 夏の参院選を意識して民主党を攻撃した丸川はいかにも軽率だったが、丸川の失言に対する一面的な糾弾もまた、政治宣伝のそしりを免れまい。」

 

と、政治宣伝は止めた方がよいと冷静な主張をしており評価するが、科学技術上の事項に関わる主張をするのであれば、正しく理解した上での言説なければ、多くの人々を誤った方向へ導くことに言論人は気づいてもらわなければならない。

 

国民ひとり一人が放射線に関する知識を正しく理解できるよう、このブログでは発信を続けていきたい。