読売新聞社説「福島の放射線 住民の帰還促す目安がほしい」に関して2015年11月04日 10:59

55.読売新聞社説「福島の放射線 住民の帰還促す目安がほしい」に関して

 

今日(11月4日)の読売新聞に、掲題の社説が掲載された。福島県で避難指示の解除が進みつつあるが、放射線に対する不安から帰還する住民が少ないことに対しての、ひとつの対処方法を提案したものである。

 

このブログでは、テレビ朝日やNHKの福島に関連したテレビ報道の問題、朝日や毎日等の新聞ジャーナリズムの未熟な見解の間違いを指摘し、いたずらに放射線恐怖症を煽るマスメディア報道に対して、正しい理解をひろめるための発信を何度も続けてきた。

 

読売新聞についても、昨年の8月の報道について苦言を呈してきたところであるが、今日の社説を書いた論説委員は、問題の本質を正しく理解しているようで評価したい。そこで、今回はこの社説について、私のコメントを補足し、皆さんに正しい理解を深めてもらいたい。

 

 <正しい理解のために>

 

読売新聞の社説では、先日行われた原子力規制委員会の田中俊一委員長と福島県の首長との意見交換の話を取り上げ、

「帰還をためらう最大の理由は、放射線への不安だろう。原子力規制委員会の田中俊一委員長は県内14市町村を訪問し、各首長と意見交換した。その際にも、首長からは、帰還に向けて被曝ひばく線量の指針策定を求める声が出た。田中委員長は「(住民が)自分で勉強して納得するしかない」との見解を示した。一部には、「突き放した言い方だ」といった批判もあるが、田中委員長の指摘にはもっともな面がある。」

 

と、田中委員長の指摘を評価している。

田中委員長の指摘は、私が繰り返しこのブログで言ってきたことと同じで、住民ひとり一人が、不安というのならその実態はどうなのか、科学的にどうリスクは評価すべきなのかを自分で学び、自分で考える科学リテラシーを身に着けることが大切だということである。そうすることによって、タメにするマスメディアの報道にも左右されなくなるし、自分で納得して行動することが大切なのである。

 

そして、社説では低線量被曝の影響について、

 

「国際的に、100ミリ・シーベルト以下の放射線量では、健康への影響は統計的に検出できないほど小さいとされている。」

 

と、私がこれまで見てきたマスメディアの報道の中で、おそらく初めて正しい理解の上での表現を用いてくれた。

 

これまで繰り返しこのブログで指摘してきたように、「低線量被曝の健康影響はわからないことが多い」という間違った表現で放射線の恐怖を煽る一部の似非専門家やマスメディアの誤りと意図について、

「影響はわからない」ではなく、実態は「低線量被曝では、健康に対する影響は認められていない」、つまり「リスクが十分小さいから、疫学調査でも統計的に有意な結果が出ず、認められていない」が正しく、「認められていない」を「影響がわからない」と言い換え、リスクが十分小さいということは言わないで、「影響はわかっていない。影響はわからないことが多い」という表現に持っていくことを指摘してきた。

その意味で、今回のこの社説の表現は、そうした誤った表現とは違う、正しく理解した上での適切な表現である。

 

この社説では、年間1ミリシーベルトに拘る住民がいることに関して、

 

「中長期的には1ミリ・シーベルトを目指すにしても、帰還の目安としては、現実的なレベルを検討すべきだ。政府に求められるのは、住民の判断に役立つ科学的なデータを提供することである」

 

 と、している。前回説明した「モグラたたき」モデルによる評価のように低線量被曝の影響についての最近の知見含めて、正しい科学技術上のデータや知識を行政サイドでもさまざまに提供する努力は必要だと私も思う。私もこのブログでも継続して「正しい理解」を得るために発信していくつもりである。そして、今回の社説が最後に述べているように、国民ひとり一人が

 

風評を防ぐためにも、放射線の正しい知識を身に付けたい」。




論語四十八の言葉(42)「如有周公之才之美、使驕且吝、其餘不足観也已矣(如(も)し周公の才の美ありとも、驕り且つ吝(やぶさ)かならしめば、其の余は観るに足らざるのみ。)」2015年11月10日 11:39

孔子が、周公ほどの立派な才能があったとしても、傲慢で人を見下し、物惜しみをするような人であれば、人として観るべき価値はないものだと語っている言葉である。

 

私の社会人としての生活の中で、優秀な人も多く見てきたが、一番問題で、害にしかならないと考えたのは、自分は優秀で俺の言うことを聞いていればよいとし、傲慢で人の言うことを聞こうとしない人間であった。特にそのような人が、権限を行使できるような地位にある場合は最悪であるのを観てきた。

技術責任者として経営者として、そうした人をつねに反面教師とし、この言葉を考えてきた。




エネルギーミックスの議論:多様度評価から見た各国比較とわが国の2030年見通し2015年11月30日 14:11

エネルギー問題については、前回(4月)に社会の持続可能性を担保するために、エネルギーミックスの議論をするのであれば、多様性評価の尺度を入れるべきであり、そのための重み付き多様度指数について提案した。

そして、IEAデータに基づき、3.11大震災前の2010年と大震災後の2012年について、主要な国の指数について比較し、わが国は残念ながら大震災前の世界第一位の多様性から低下していることを示し、各国は概ね改善していることを示した。

 

IEAのデータで、2013年分が公開され、さらに今年の7月にわが国の2030年の見通し(私自身はこのような長期見通しを立てることに賛成しないが、政府の目指しているところを多様性の観点から見ることにした)がエネルギー基本計画に基づいて発表されたので、それについても評価し、あらためて各国の状況を比較してみた。

 

以下の表が、各国の2010年、2012年、2013年の供給電源種別割合と多様性評価指標である。


   国      日本     ドイツ    デンマーク    イタリア
 電源割合(年) 2010 2012 2013   2010 2012 2013 2010 2012  2013 2010 2012 2013
   石炭0.267 0.293 0.322 0.446 0.471 0.488 0.451 0.294 0.399 0.128 0.158 0.146
   石油0.084 0.175 0.143 0.013 0.013 0.012 0.020 0.011 0.010 0.063 0.055 0.047
  天然ガス0.269 0.384 0.384 0.141 0.127 0.114 0.203 0.117 0.095 0.441 0.377 0.328
  バイオ燃料0.026 0.029 0.031 0.047 0.065 0.068 0.095 0.099 0.097 0.021 0.030 0.045
  廃棄物発電0.006 0.008 0.008 0.018 0.019 0.020 0.043 0.045 0.044 0.012 0.013 0.014
   原子力0.258 0.015 0.009 0.229 0.163 0.162 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000
   水力0.081 0.081 0.081 0.045 0.046 0.048 0.001 0.000 0.000 0.157 0.128 0.165
   地熱0.002 0.003 0.002 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.016 0.016 0.017
   太陽光0.003 0.007 0.014 0.019 0.043 0.052 0.000 0.003 0.014 0.006 0.055 0.065
   太陽熱0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000
   風力0.004 0.005 0.005 0.062 0.083 0.086 0.201 0.286 0.310 0.026 0.039 0.045
   潮力0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000
   その他0.000 0.000 0.000 0.005 0.003 0.003 0.000 0.000 0.000 0.002 0.002 0.002
   輸出入0.000 0.000 0.000 -0.024 -0.034 -0.054 -0.029 0.145 0.030 0.128 0.126 0.127
  単純指数0.776 0.728 0.720 0.733 0.737 0.731 0.715 0.706 0.705 0.662 0.727 0.760
 重み付け指数0.900 0.862 0.858 0.860 0.854 0.845 0.847 0.907 0.871 0.887 0.907 0.924
   国      米国     中国     フランス     イギリス
 電源割合(年) 2010 2012 2013 2010 2012 2013 2010 2012 2013 2010 2012 2013
   石炭0.453 0.379 0.392 0.775 0.760 0.756 0.049 0.042 0.047 0.283 0.384 0.353
   石油0.011 0.008 0.008 0.003 0.001 0.001 0.010 0.008 0.005 0.012 0.008 0.006
  天然ガス0.231 0.292 0.265 0.016 0.017 0.017 0.044 0.042 0.033 0.457 0.266 0.256
  バイオ燃料0.012 0.013 0.013 0.006 0.007 0.007 0.005 0.006 0.006 0.027 0.034 0.044
  廃棄物発電0.005 0.005 0.005 0.002 0.002 0.002 0.008 0.009 0.007 0.008 0.011 0.011
   原子力0.190 0.185 0.188 0.018 0.020 0.021 0.796 0.818 0.808 0.162 0.187 0.189
   水力0.065 0.069 0.066 0.172 0.175 0.169 0.125 0.122 0.144 0.018 0.022 0.020
   地熱0.004 0.004 0.004 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000
   太陽光0.001 0.002 0.003 0.000 0.001 0.003 0.001 0.008 0.009 0.000 0.003 0.005
   太陽熱0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000
   風力0.022 0.033 0.039 0.011 0.019 0.026 0.018 0.029 0.031 0.026 0.052 0.076
   潮力0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.001 0.001 0.001 0.000 0.000 0.000
   その他0.000 0.000 0.001 0.000 0.000 0.000 0.000 0.001 0.001 0.000 0.000 0.000
   輸出入0.006 0.011 0.014 -0.003 -0.002 -0.002 -0.057 -0.086 -0.092 0.007 0.032 0.039
  単純指数0.697 0.725 0.726 0.373 0.394 0.401 0.412 0.409 0.424 0.679 0.724 0.745
 重み付け指数0.847 0.867 0.868 0.660 0.673 0.676 0.799 0.787 0.791 0.846 0.871 0.884

これを見てわかるのは、わが国のエネルギーミックスは他国に比して大震災前はもっとも多様性に富んだものであったが、大震災後も低下したとはいえ、決して遜色のないものではないということである。これは、もともと資源のない島国として、多様性の観点から努力してきていることを示しているもので、自信をもってよいと思う。75%以上を石炭に頼る中国や原子力に頼るフランスは、やはり多様性の観点からの持続可能性を考えれば、脆弱な国であると言えよう。

 

重み付け多様度指数は、大震災前の日本のように0.9台が望ましいと前回述べたが、2013年にこれに該当するのはイタリアだけである。ただし、イタリアの場合は、毎年に12%以上をフランス等からの輸入に頼っていることを考えれば、決してエネルギー安全保障の観点から優秀とは言えない。

尚、7月に発表された政府の長期エネルギー見通しにおける2030年の電源割合は、石炭0.26、石油0.03、天然ガス0.27、バイオ燃料0.037~0.046、原子力0.2~0.22、水力0.088~0.092、地熱0.01~0.011、太陽光0.07、風力0.017であるので、これを使って重み付き多様度指数を計算すると0.909になり、目指すべき0.9台に到達し、多様性の観点からの望ましいエネルギーミックスの形になっていると言えよう。

各国の状況含めて、重み付き指数の状況を以下のグラフに示したので参照して欲しい。

 

各国の電源多様度重み付け指数