エネルギーミックスの議論:各国の多様度尺度の推移(2)2018年11月04日 14:34

エネルギーミックスの議論には多様度評価が大事であるとこのブログで主張し、昨年も各国の状況推移を2014年までのデータで示したが、IEAの最新データを使って、2015年、2016年までのデータを示すことができるようになったので、以下の表にまとめてみた。

  国             日本           ドイツ
 電源割合         (年) 2010 2012 2013 2014 2015 2016 2010 2012 2013 2014 2015 2016
 石炭0.267 0.293 0.322 0.335 0.330 0.330 0.446 0.471 0.488 0.480 0.488 0.480
 石油0.084 0.175 0.143 0.112 0.098 0.080 0.013 0.013 0.012 0.010 0.012 0.010
 天然ガス0.269 0.384 0.384 0.404 0.394 0.384 0.141 0.127 0.114 0.105 0.114 0.105
 バイオ燃料0.026 0.029 0.031 0.028 0.033 0.014 0.047 0.065 0.068 0.073 0.068 0.073
 廃棄物発電0.006 0.008 0.008 0.006 0.007 0.018 0.018 0.019 0.020 0.023 0.020 0.023
 原子力0.258 0.015 0.009 0.000 0.009 0.017 0.229 0.163 0.162 0.164 0.162 0.164
 水力0.081 0.081 0.081 0.084 0.088 0.080 0.045 0.046 0.048 0.043 0.048 0.043
 地熱0.002 0.003 0.002 0.002 0.002 0.002 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000
 太陽光0.003 0.007 0.014 0.024 0.034 0.048 0.019 0.043 0.052 0.061 0.052 0.061
 太陽熱0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000
 風力0.004 0.005 0.005 0.005 0.005 0.006 0.062 0.083 0.086 0.097 0.086 0.097
 潮力0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000
 その他0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.020 0.005 0.003 0.003 0.003 0.003 0.003
 輸出入0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 -0.024 -0.034 -0.054 -0.057 -0.054 -0.057
 単純指数0.776 0.728 0.720 0.703 0.717 0.727 0.733 0.737 0.731 0.739 0.747 0.759
重み付け指数0.900 0.862 0.858 0.850 0.857 0.862 0.860 0.854 0.845 0.849 0.849 0.856

  国          デンマーク          イタリア
 電源割合 (年) 2010 2012 2013 2014 2015  2016 2010 2012 2013 2014 2015 2016
 石炭0.451 0.294 0.399 0.316 0.204 0.254 0.128 0.158 0.146 0.144 0.138 0.118
 石油0.020 0.011 0.010 0.009 0.009 0.009 0.063 0.055 0.047 0.044 0.041 0.037
 天然ガス0.203 0.117 0.095 0.060 0.052 0.062 0.441 0.377 0.328 0.289 0.337 0.386
 バイオ燃料0.095 0.099 0.097 0.097 0.094 0.116 0.021 0.030 0.045 0.051 0.052 0.052
 廃棄物発電0.043 0.045 0.044 0.046 0.048 0.045 0.012 0.013 0.014 0.015 0.014 0.015
 原子力0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000
 水力0.001 0.000 0.000 0.000 0.001 0.001 0.157 0.128 0.165 0.186 0.143 0.135
 地熱0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.016 0.016 0.017 0.018 0.019 0.019
 太陽光0.000 0.003 0.014 0.017 0.017 0.021 0.006 0.055 0.065 0.069 0.070 0.068
 太陽熱0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000
 風力0.201 0.286 0.310 0.373 0.405 0.366 0.026 0.039 0.045 0.047 0.045 0.054
 潮力0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000
 その他0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.002 0.002 0.002 0.002 0.002 0.002
 輸出入-0.029 0.145 0.030 0.082 0.170 0.125 0.128 0.126 0.127 0.135 0.141 0.113
 単純指数0.715 0.706 0.705 0.690 0.639 0.694 0.662 0.727 0.760 0.774 0.750 0.738
重み付け指数0.847 0.907 0.871 0.890 0.907 0.908 0.887 0.907 0.924 0.934 0.922 0.910

  国            米国            中国
 電源割合(年) 2010 2012 2013 2014 2015 2016 2010 2012 2013 2014 2015 2016
 石炭0.453 0.379 0.392 0.390 0.336 0.309  0.775 0.760 0.756 0.726 0.703 0.682
 石油0.011 0.008 0.008 0.009 0.009 0.008 0.003 0.001 0.001 0.002 0.002 0.002
 天然ガス0.231 0.292 0.265 0.264 0.313 0.324 0.016 0.017 0.017 0.020 0.025 0.029
 バイオ燃料0.012 0.013 0.013 0.014 0.014 0.014 0.006 0.007 0.007 0.008 0.009 0.010
 廃棄物発電0.005 0.005 0.005 0.004 0.004 0.004 0.002 0.002 0.002 0.002 0.002 0.002
 原子力0.190 0.185 0.188 0.189 0.189 0.192 0.018 0.020 0.021 0.023 0.029 0.034
 水力0.065 0.069 0.066 0.064 0.062 0.067 0.172 0.175 0.169 0.188 0.193 0.191
 地熱0.004 0.004 0.004 0.004 0.004 0.004 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000
 太陽光0.001 0.002 0.003 0.005 0.007 0.011 0.000 0.001 0.003 0.005 0.008 0.012
 太陽熱0.000 0.000 0.000 0.001 0.001 0.001 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000
 風力0.022 0.033 0.039 0.042 0.044 0.052 0.011 0.019 0.026 0.028 0.032 0.038
 潮力0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000
 その他0.000 0.000 0.001 0.001 0.001 0.001 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000
 輸出入0.006 0.011 0.014 0.012 0.015 0.014 -0.003 -0.002 -0.002 -0.002 -0.002 0.000
 単純指数0.697 0.725 0.726 0.729 0.739 0.748 0.373 0.394 0.401 0.438 0.468 0.495
重み付け指数0.847 0.867 0.868 0.869 0.877 0.883 0.660 0.673 0.676 0.700 0.719 0.734

  国           フランス           イギリス
 電源割合(年) 2010 2012 2013 2014 2015 2016 2010 2012 2013 2014 2015 2016
 石炭0.049 0.042 0.047 0.024 0.024 0.020 0.283 0.384 0.353 0.284 0.213 0.088
 石油0.010 0.008 0.005 0.004 0.004 0.005 0.012 0.008 0.006 0.005 0.006 0.005
 天然ガス0.044 0.042 0.033 0.026 0.039 0.068 0.457 0.266 0.256 0.280 0.278 0.402
 バイオ燃料0.005 0.006 0.006 0.006 0.008 0.010 0.027 0.034 0.044 0.061 0.074 0.076
 廃棄物発電0.008 0.009 0.007 0.008 0.008 0.009 0.008 0.011 0.011 0.011 0.018 0.021
 原子力0.796 0.818 0.808 0.881 0.867 0.783 0.162 0.187 0.189 0.177 0.195 0.201
 水力0.125 0.122 0.144 0.138 0.118 0.126 0.018 0.022 0.020 0.024 0.025 0.023
 地熱0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000
 太陽光0.001 0.008 0.009 0.012 0.014 0.016 0.000 0.003 0.005 0.011 0.021 0.029
 太陽熱0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000
 風力0.018 0.029 0.031 0.035 0.042 0.042 0.026 0.052 0.076 0.089 0.112 0.105
 潮力0.001 0.001 0.001 0.001 0.001 0.001 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000
 その他0.000 0.001 0.001 0.001 0.001 0.001 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000
 輸出入-0.057 -0.086 -0.092 -0.136 -0.127 -0.081 0.007 0.032 0.039 0.057 0.058 0.049
 単純指数0.412 0.409 0.424 0.367 0.381 0.449 0.679 0.724 0.745 0.768 0.793 0.745
重み付け指数0.799 0.787 0.791 0.751 0.759 0.804 0.846 0.871 0.884 0.903 0.919 0.899

また、本年の見直しでも2030年の我が国の電源割合の見通しに変化はないので、それを含めて各国の推移をグラフの形で以下に示した。

各国の重み付け多様度指数推移

頭打ち傾向にあるイタリアやイギリスを除いて、重み付き多様度指数が各国で改善してきているのは良い傾向で、わが国も太陽光発電の増加や原発再稼働で大震災以後減少してきた指数が増加に転じている。ただ、震災前の状況には依然として遠い状況であるには違いない。


原発再稼働問題:伊方原発3号機広島高裁異議審決定に関して2018年09月29日 10:33

このブログでは、原発再稼働問題に関して、科学技術上の問題については、正しい事実認識に立ったうえでの判断、決定でなければその主張に論拠はなく、かえって信頼を失うことになると、繰り返し主張してきた。

今回の広島高裁での伊方3号機の運転可否の争点は、9万年前に起こったとされる阿蘇の巨大カルデラ噴火の可能性を、運転可否に考慮しなければならないかということであった。昨日の大分地裁の決定も全く同様である。

 

この件に関しては、九州電力の川内1,2号機の運転差し止めに関する福岡地裁宮崎支部の棄却決定に関連して説明したように(2016年4月7日の記事参照)、

 

「巨大噴火(川内原発の場合は約3万年前に起こったとされる姶良カルデラの巨大噴火が争点)は1万年に一度程度の発生頻度と考えられ、南九州全体が壊滅するような噴火であり、これを今現在考慮しないといけないのなら、そもそも南九州に人が住んではいけないことになる。だが、現実に多くの人が生活しているのは、まさに「発生の頻度が低いから無視し得るのが社会通念」になっているからではないか。」

 

と考えるし、2014年10月10日には「川内原発の火山噴火リスク問題:正しく理解しよう」で、巨大カルデラ噴火のリスクを、原発の新規制基準上の審査としてどう考えているかについて、説明してきたので参照してほしい。

 

要するに、「原発供用期間中の今後数十年内に、設計対応が不可能な火山事象が生じる可能性は、十分小さいと科学的に評価している」ということであり、今回の広島高裁も、私がこのブログで述べてきたこの点を理解し、それが社会通念上許容されているとしているのである。

 

ところが、残念ながら一部のマスメディアでは相変わらず、こうした点をきちんと説明せずに感情論で、見解を述べている。

 

 例えば、毎日新聞の社説(9月26日)「伊方原発の再稼働容認 リスクを直視していない」では、

「国が破局的噴火のような災害に具体的対策を取っておらず、国民の大多数も格別に問題視していないとも言及して、破局的噴火が起きるリスクを火山ガイドの適用範囲から除外。立地に問題ないと判断した。 だが、司法には国民一般が問題視していないリスクに警鐘を鳴らす役割もあるはずだ。」

 

として、司法の論理的な判断の当否を論じるのでなく、運転を止めることによって、「国民一般が問題視していないリスクに警鐘を鳴らす」ことを求めるという、再稼働反対の感情論なのである。そして、

 

「伊方原発は、大地震の恐れや地形条件などの点で、問題が多い場所に立地していると指摘されてきた。 施設の近くには国内最大級の断層「中央構造線断層帯」が走り、想定を超える揺れが襲う危険性がある。また、細長い佐田岬半島の付け根付近に原発があり、半島に住む約4700人の避難経路が寸断されることが危ぶまれている。決定はそうしたリスクを直視していないのではないか。」

 

と指摘するが、指摘したその問題を規制委員会がどう評価して(リスク評価)新規制基準に適合しているとしたかの事実関係を述べないのは残念なことである。規制委員会の評価に異論があるのなら、どこに誤りがあるのか、具体的に指摘せずに、リスクを直視していないというだけでは議論にならないのである。

 

もっとひどかったのは、東京新聞の社説(9月26日)「伊方運転容認 “常識”は覆されたのに」で、2016年の川内原発で熊本地震を持ち出しての事実認識に基づかない主張を展開させた時と同じで、わざわざ北海道地震を持ち出し、「北海道で起こったことは、日本中どこでも起こりうる。地震に対する原発の規制レベルも大幅に引き上げるべきだということだ。」と、地震に対する現在の規制上のリスク評価のどこに問題があるのか言わずに(新知見が出てくれば不断に基準を見直すのは当然必要だが)、大幅に規制レベルを上げろと感情的に主張するのでは、議論にならないのである。

 

また、「巨大噴火は予知できないというのは、それこそ学会の常識だが、大噴火のリスクに対する考え方も、そろそろ改めるべきではないか。」と、巨大噴火は予知できないが、ここ数十年以内に起こるリスクは十分小さく無視しうるという「学会常識」について言わないのは、低線量被ばくの健康影響が、十分にリスクが小さいために統計学的に有意に検証できないのを、「よくわかっていない」としか言わないのと同じで、自己の主張に都合よい部分しか切り取って言わないという科学技術上の議論にやってはいけないことをしており、大変残念なことである。

 

私たちは、科学リテラシーを高め、このような問題を正しく理解していきたいと思うのである。




福島第一原発のトリチウム水処分問題2018年07月18日 13:24

政府の汚染水問題検討の有識者会議が先週開催され、トリチウム水処分に関して8月末に福島と東京で公聴会を開催するとしたことが、報道されている。

 

問題となっているトリチウム水処分については、このブログでは、5年前の2013年9月に放射線の知識第37回「福島第一の汚染水問題に関連したトリチウム」でトリチウムの放射性物質としてのリスクについて、理解を深めるために説明した。

 

福島第一原発の廃炉を着実に進めるためには、トリチウム水処分の問題が焦眉の急で、原子力規制委員会が認めているように、基準濃度以下での海洋放出により解決することが最善の解決方法で、大切なことである。

しかしながら、風評被害を恐れる漁協の反対が強いようで、もちろん、事業者である東京電力自体に関係者への説明、了解を得る努力が必要であるが、国のエネルギー基本計画にも「事業者任せするのでなく、国が前面に立って果たすべき役割を果たし、国内外の叡智を結集して廃炉・汚染水問題を始めとする原子力発電の諸課題解決に向けて、予防的かつ重層的な取組を実施 しなければならない。」とあるように、国が前面に立ってこの問題の解決に積極的に取り組むべきである。

その意味で、公聴会を開催することで、責任を果たして解決に向けて動いてほしいところである。

一方、このトリチウム水処分については、マスメディアでは、日経新聞が、7月13日の記事で、

 

「公聴会は8月30日に福島県富岡町で、同31日に郡山市と東京で開く。これまで検討してきた海洋放出のほか、地層注入や水蒸気放出などの処分方法を説明し、トリチウム水の処分に理解を求める。処分を急ぐのは、敷地内にためるタンクが増え続け、近く敷地いっぱいになるとみられているためだ。

トリチウムは水素と似た性質を持ち、自然界にも存在する。国の基準で定められた1リットルあたり6万ベクレルの濃度に薄めれば海に流すことができる。日本を含む世界の原発や再処理工場で今も排出されている。例えばフランスの再処理施設では年間1京ベクレル以上のトリチウムを海洋に排出している。

トリチウムは弱い放射線を出すが、原子力規制委員会や科学者らは健康への影響を含め海洋放出に問題はないとの立場だ。有識者会議では13年から2年半を費やし、大気中に蒸発させたり地中に埋めたりするなどのトリチウム水の処理法を議論。技術やコスト面から海洋放出が最も合理的との趣旨の報告書をまとめた。だが風評被害を懸念する地元漁業者を中心に反発は強く、政府は結論を先送りしてきた。(中略)

当事者の東京電力ホールディングスは静観している。日立製作所から招いた川村隆会長は就任後にこの問題に言及し、福島県の漁協などから反発を招いた。「責任主体の東電がなぜ判断を国に委ねるのか」。5月末、原子力規制委員会に呼ばれた東電HDの小早川智明社長は規制委の更田豊志委員長などから何度も厳しく追及されたが、「国の判断を待つしかない」(東電幹部)との姿勢だ。

福島第1原発で出る汚染水は、トリチウム以外の放射性物質を取り除ける浄化設備で処理した後、敷地内のタンクにため続けている。処理水は事故後7年間で100万トンを超えた。2020年末には用地が限界に近づくとみられており、「年度内」(原子力規制委員会の更田委員長)に処分方法を決める必要があるとみられている。

敷地の制約から廃炉作業に影響が出るとの指摘もあり、会合では委員から「しっかりと廃炉を進めるためにも、処分の道筋を早く決めるべきだ」との意見も出た。」

 

と、科学技術的に客観的な記事を掲載しているが、他のマスメディアでは言説が少ないように思われる。

廃炉を進め、風評被害を防ぐために、原発再稼働の賛否に関わらずトリチウム水の処分問題解決(海洋放出)についてマスメディアも積極的に言説を展開(もちろんトリチウム水のリスクについての科学技術的に正しい理解の上での)してほしいものである。




新しいエネルギー基本計画案に関して2018年06月18日 16:15

先月、経産省は4年ぶりにエネルギー基本計画案

http://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/pdf/basic_policy_subcommittee_002.pdf)を作成し、パブリックコメントを募集したところであるが、

今回の基本計画案のポイントは、

 

「今回のエネルギー基本計画の見直しは、2030年のエネルギーミックス(長期エネルギー需給見通 し、2015年7月経済産業省決定)の実現と2050年を見据えたシナリオの設計で構成することとした」

 

と、記載されているように、2030年のエネルギーミックスは変えず、それを実現する施策と更なる長期の2050年を見据えたシナリオ設計をしてみるということであった。

私は、4年前の基本計画決定時に述べたように、中長期のエネルギーミックス策定は、技術の不確定性が大きいために、誰も責任の持てない数値目標など定める必要はないと考えており、この考えは今も変わっていないが、毎年、技術動向を適切に評価する必要があると思っている。

その意味で、今回の基本計画案の「2050年シナリオの設計」では、「科学的レビューメカニズム」という項目が設けられ、

 

「2050年へ向けて「野心的な複線シナリオ」を検討しても、その実現に向けた過程において、技術動向や世界情勢は予見しがたい形で大きく変動する。その中で、「より高度な 3E +S」を満たすエネルギー選択を適切に実行していくため、最新の技術動向と情勢を定期的に把握し、透明な仕組み・手続の下、各選択肢の開発目標や相対的重点度合いを柔軟に修正・決定していく「科学レビューメカニズム」を構築する 。

このメカニズムが担う機能は、エネルギー選択を具体化する上で 極めて重要あり、以下のような多層的な検証メカニズムとしなければならない。

 

  1)内外のネットワークを駆使した情報収集・解析

  2)統一的な評価軸での技術比較検証

  3) 各技術が内包する多様なリスクの定性・量的評価

  4)各技術に関する自国産業の比較優位検証

  5)1)~4)に関する客観的・多面専門な分析の結果基づき、選択肢 ごとの開発目標を設定するとともに、選択肢の相対的重点度合い判断し、それに応じて政策資源の重点化を決めていく。

 

先行例を参考にしながら、

 1)エネルギー情勢分析と学術・技に関する人的ネットワークの形成

 2)エネルギーに関する経済的・技術なデタベスの構築と公開

 3)脱炭素化エネルギーシステム間のコスト・リスク検証手法の開発と公開

 4)国民的関心に応えるためのエネルギー情勢判断の基礎材料の提供

等の点に留意して、具体化する必要がある。

また、このような科学的レビューを通じて、国民に対しエネルギー関する最新の情報を正確に提供し、幅広く伝え、理解を深めてもらうとともに、国民一人ひとりが暮らしの中で主体的なエネルギー選択を行えるよう促していく。」

 

と、記載されており、まさに私が述べてきたように、適切な科学的レビュー評価を行っていくメカニズム構築の提案がなされていることは、わが意を得たりの思いである。

 

一方、今回の基本計画案について、マスメディアの評価は相変わらずで、例えば、朝日新聞の5月18日の社説「エネルギー基本計画 めざす姿がずれている」の

 

「新たなゴールをめざす動きが国外で広がるのを横目に、従来の道にしがみつく。大局を見誤っていると言うほかない。新しいエネルギー基本計画の案を経済産業省がまとめた。「これまでの基本方針を堅持する」とうたい、今の計画を踏襲する内容だ。事業環境が厳しい原発や石炭火力を従来通り、「重要なベースロード電源」と位置づけた。世界では、エネルギーの供給や使い方に構造的な変化が起きつつある。太陽光や風力などの再生可能エネルギーが化石燃料に取って代わる「脱炭素化」や、規模が小さい発電設備を蓄電池などと組み合わせ、効率よく地産地消する「分散化」など、影響は社会に広く及ぶ。それなのに旧来の方針に固執して、変革に対応できるのか。世界の流れから取り残されないか。疑問や懸念は尽きない。この計画案は認められない。」

 

が、典型的な主張で、世界の潮流から遅れて相変わらず、従来の道にしがみついていると、エネルギー問題は各国の事情(国の規模、資源量、電力では系統連系程度等)に応じ、各エネルギー源の特徴を踏まえて適切に対応しなければ、取返しが付かなくなることを理解していない浅薄な論調なのである。その意味で、今回の基本計画案で、

 

「エネルギー情勢は時々刻と変化し、前回の計画策定以降大きな変化につながるうねり見られるが、2030年のエネルギーミックスの実現を目指すに 際して、完璧なエネルギー源がない現実に変化はない。再生可能エネルギーは火力に依存しており、脱炭素化電源でない。蓄電・水素と組み合わせれば脱炭化電源なりうるが、高コストで開発途上である。原子力は社会的信頼の獲得が道半ばであり、再生可能エネルギーの普及や自由化の中で投資可能な原子力の開発もこれからである。化石資源は水素転換により脱炭素化が可能だが、これも開発途上である。4年前の計画策定時に想定した2030年段階での技術動向に本質的な変化はい。我が国は、まず2030年のエネルギーミックスの確実な実現に全力を挙げる。」

 

の主張の方が、国の基本政策であるエネルギー政策として、現実的で妥当な計画であろう。但し、この2030年のエネルギーミックスについても、科学的レビューメカニズム構築で定期的に見直していくことが大切なのである。



放射線被曝の遺伝的影響再確認:被爆2世団体のNHKニュース接して2018年02月15日 12:31

(63)放射線被曝の遺伝的影響再確認:被爆2世団体のNHKニュース接して

 

先日(2月11日)、NHKのニュースを見ていて驚いた。「被爆2世の団体が総会 国際社会への訴え強化へ」という見出しのニュースで、広島・長崎の被爆者を親に持つ被爆2世の団体が総会を開き、「被爆者援護法の適用を国に求めていくとともに、被爆2世への施策が十分でないのは国による人権侵害だとして国際社会への訴えを強めていくことなどを決めた。」というニュースである。

 

寡聞にして被爆2世の団体があることを承知していなかったし、人権侵害として国際社会への訴えを強めるということに正直驚いたわけであるが、NHKが何らの解説もなく、このようなニュース報道をすることにも違和感を覚えたのである。

 

このブログの「放射線の知識」記事の第1回(2011年9月12日)では、「放射線被曝の遺伝的影響」について正しい理解を得ていただくように、科学的、客観的な事実認識を説明してきた。

その際にも説明しているが、私の視点は、政治的、イデオロギー的な余地のないものなのだが、調べてみると被爆2世の団体、例えば「被爆二世団体連絡協議会」なる団体のWEBサイト(http://www.c-able.ne.jp/~hibaku2/)では、国に対して集団訴訟を提起しているようだし、参加団体は教職員組合、部落解放同盟、自治労といった組織の被爆二世の会で、政治的な意向の強い組織のようである。

国との訴訟で、国が「親が原爆の放射能に被曝したことによって被爆二世が発がんリスク増加など遺伝的影響を受けることは科学的に証明されておらず、被爆二世が親の放射線被曝による遺伝的影響を受けることを前提として被爆者援護法が憲法違反であるとする原告らの主張は、前提を欠き失当である」と主張しているのに対して、「私たちは、この国の主張を認めることはできない。徹底して反論し、私たち被爆二世の現実を社会に知らせていく。」としているように、科学的、客観的な事実認識に基づいて活動することからは、かけ離れた団体のようである。

 

私たちはこうしたタメにする主張に騙されてはいけないし、報道するマスメディア情報にも科学リテラシーを高めて判断していかなければならないと思う(マスメディアも科学的な知識が必要とされる報道には、わかりやすく科学的な事実認識を周知するようにしてほしいと思う)。

 

そこで、今回はあらためて遺伝的影響について認識し、正しい理解に努めたいと思う。

 

<正しい理解のために>

 

第1回で述べた「放射線被曝による遺伝的影響」に関する科学的な事実認識をまとめると以下のようになる。

 

原爆被曝者、チェルノブイリ事故被曝者の調査

 

広島・長崎の被爆者の子供たち(被爆2世)についての調査は、新生児65,000人について調査が行われ、東京の被爆の影響のない人たちの新生児と比較し、重い出生時障害の発生率に相違がないこと、チェルノブイリ事故の被曝者の子供についても、遺伝的障害の発生頻度が事故により増加したという明確な証拠は認められないとされている。

 

国連科学委員会(UNSCEAR)の評価

 

UNSCEARの評価では、これまでの疫学調査で人の放射線被曝の遺伝的影響は確認されておらず、リスクを直接評価することはできないが、もともと自然発生率がかなり高いなかで、リスク評価の上限値として、

1シーベルト(1,000ミリシーベルト)の親の被曝で、自然界に通常ある6%程度の先天性異常発生頻度が0.2%程度増えると安全サイドに考えていくとしている。

つまり、福島の人たちが気にしている1~100ミリシーベルトの被曝では、安全サイドに考えて、0.0002~0.02%程度の先天性異常の発生頻度増加リスクであり、これは無視できるリスクだというわけである。

 

被爆2世については、先天性の異常のみならず、その後のがん発症等の健康調査も広島の放射線影響研究所で行われていて(http://www.rerf.jp/radefx/genetics/FOCSreportJ.pdf)、親の被爆に関連した子供の疾患に関するリスク増加の証拠は見られず、健康影響の関連性はほとんど見出されないという結果もでているのである。

 

放射線被曝した人の胎児被曝でない子供にも影響がでるというような誤った認識は、残念ながら日本社会で払拭されているとはいえず、今回の被爆2世団体の活動や報道でそうしたことが続くことに強い懸念をもつものである。